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Machuca マチュカ/僕らと革命

チリ映画 (2004)

1973年9月11日のピノチェトによる軍事クーデターに至る直前の、アジェンデ大統領による共産党支配下での経済的混乱と大規模なデモが続く中、私立のエリート校セント・パトリックの校長を務めるIC(キリスト教左派)の神父は、「統合プロジェクト(Proyecto de integración)」と呼ばれる “貧困層の少年を各クラス5名ずつ入学させる” という制度を導入した〔映画の中では、マッケンロー神父となっているが、実際は、映画の最後に献辞があるようにヘラルド・ウエラン(Gerardo Whelan)神父〕。映画の主役、11歳のゴンサロのクラスに入ってきた5人の1人がペドロ・マチュカ。映画のタイトルは『マチュカ』となっているが、これは象徴的なもので、映画そのものはゴンサロの視点で描かれている。その理由は、監督のアンドレス・ウッド(Andrés Wood)も、当時、セント・ジョージ校〔映画のセント・パトリック校〕に在籍していて〔ゴンサロよりは3歳年下〕、それがこの映画を作るきっかけでもあるからだ。ただ、ゴンサロは 監督の分身ではなく、客観的な立場からストーリーを語るための 架空で無個性の登場人物だ。マチュカも架空の存在ではあるが、「La Cruzada del Verdadero Machuca(本当のマチュカの改革運動)」という自己主張の資料によれば、マチュカの本名はAmante Eledín Parraguez。彼は、ウエラン神父の統合プロジェクトによってセント・ジョージ校に入学できた貧民層出身の少年で(右の写真)、在学中に『Tres años para nacer(生を受けた3年間)』という本を書き、それを、この映画が製作させる直前の2002年に出版した。この本が映画にどう影響したのかは分からないが、彼はチリ大学を卒業し、オレゴン州ポートランド大学で教育学の修士号を取得後、各所で教師を務め、1986年には母校のセント・ジョージ校にも戻っている。映画の中のマチュカは、勉強に極めて不熱心で、何のために学校に来たのか分からないような少年に描かれていて、“本当のマチュカ” と名乗るAmante Eledín Parraguezとは全く似ていないが、少なくとも、統合プロジェクトがこの少年には効果があったことが分かる。この映画は、2004年のアカデミー外国語映画賞のチリ選出映画で、チリのバルディビア国際映画祭と、同じ南米コロンビアのボゴタ国際映画祭で作品賞を受賞した他、10の賞を受けている。なお、訳に当たっては、スペイン語字幕を8割、英語字幕を2割使用した。

2021年7月19日、ペルーの大統領選で、急進左派のカスティージョの “僅差での勝利” が確定した。これは、国は違うが、同じ南米の旧スペイン支配下のチリで、人民連合(共産主義)のアジェンデが大統領になった半世紀前の状況の再来のように思えてならない。カスティージョの名はペドロ、この映画のペドロと同じ先住民との混血で、貧困層の出身。それが “本当のマチュカ” のように教師となり、さらに飛躍して大統領にもなった。チリでは、2つの階層の間の軋轢が経済的混乱を招き、3年後のクーデターで終焉したが、今回のペルーも、得票率が僅差だったことで、混乱の生じる可能性がある。ペルーの子供達が、この映画の3人のような想いをしなくて済むように祈りたい(2021年7月21日加筆)。

1973年、共産主義者のアジェンダ大統領の末期、11歳のゴンサロの通うチリNo.1の名門校の校長マッケンロー神父は、学校に大改革を導入する。それは、各クラスに5人ずつ、貧困層の少年たちを学費ゼロで受け入れるという制度だった。その結果、ゴンサロのクラスにも、ペドロ・マチュカを含む5人が配属される。一方、上位中産階級(富裕層ではない)に属するゴンサロには、このところうっぷんが溜まっていた。それは、母が富裕層の年配男性のマンションに定期的に通い、その度にゴンサロをお供に連れて行ったからだ。クラスの生徒たちから見向きもされなかったペドロと、ゴンサロが知り合うきっかけとなったのは、農業実習の時間中。クラスに配属された5人の中で、1人、本当の不良がいて、時間中にゴンサロ、ゴンサロを虐めて楽しんでいるガストン、ペドロの3人に土くれをぶつける。ガストンはペドロがやったと思い、ゴンサロに殴るよう命じるが、ゴンサロは拒否し、逃げようとしてガストンに石をぶつけられ、額にケガを負う。恩義を感じたペドロは、放課後ゴンサロに声をかけ、伯父のトラックに乗せる。そこには、伯父の娘、ペドロのいとこのシルバナも乗っていた。2人は、市内各所で行われている、右派と左派のデモの参加者に小旗を売りつけるのが仕事で、ゴンサロもそれに協力する。ゴンサロが、試験中、英語など何も知らないペドロの答案を書いてやったことで、ペドロはますますゴンサロが好きになり、町から離れた場所に作られたスラムの中にある自分の家に連れて行く。逆に、ゴンサロは、姉の誕生パーティの日〔両親は不在で、姉の友人が集まってどんちゃん騒ぎになる〕に、一人だけでいるのはつまらないので、ペドロを呼んで、その夜は自分の部屋に泊まらせる。こうして、無類の親友となった2人は、シルバナとキス・ゲームをして遊ぶ。一方、学校では、マッケンロー神父が父兄を呼んで学校の状況を話そうとするが、神父の方針を快く思っていない多くの出席者から、激しい言葉で非難が浴びせられ、神父も負けじと反撃する。その後、学校は、ある意味、真っ二つになってしまう。ゴンサロにとっての試練は、その後に行なわれた右派のデモの時に起きる。そこに参加したゴンサロの母とシルバナが、運の悪い偶然の累積の結果、激しい口論となったことだ〔原因を作ったのは、ゴンサロの姉の彼氏と、シルバナの躾の悪さ〕。お陰で、その母親の息子であるゴンサロは シルバナに嫌われてしまう。そして、次のキス・ゲームの際のゴンサロの些細なミスに因縁をつけたシルバナが、ゴンサロの大事な自転車を盗もうとしたので、ゴンサロは1回だけシルバナを罵り、百倍言い返され、ペドロとも仲違いする。そして、軍事クーデターが起き、大統領は自殺し、軍のトップのピノチェトが大統領になる。学校は軍の統制下に置かれ、マッケンロー神父は追放される。ペドロやシルバナの暮らしていたスラムを軍が襲い、住民はトラックに乗せられて収容所に連れて行かれ、すべての家は撤去される。その混乱の中で、シルバナは射殺され、それを目の前で目撃したゴンサロは心に深い傷を負う。

上位中産階級のゴンサロ役のマティアス・ケール(Matías Quer)、貧困層のペドロ役のアリエル・マテルーナ(Ariel Mateluna)の2人とも、映画初出演。演技も非常にぎこちない〔特に、ペドロ役が〕。それでも映画が素晴らしいのは、この映画が、主役は子供でも、社会派の大人向きの映画なので、下手な演技が苦にならないから。マティアスはこの映画1本で終わったが、アリエルは現在も映画とTVで活躍している。

あらすじ

映画の冒頭、「1973年、チリのサンティアゴ〔首都〕」と表示される。ゴンサロがYシャツを着て、裾をズボンではなくパンツの中に入れ、ズボンを履いてからネクタイを締め、セーターを羽織り、その上からブレザーを着て、黒い革靴の紐を結ぶ〔すべて制服〕。そして鏡の前に立って仕上がり具合をチェックする。朝食のミルクを飲んでいる時、TVが7時20分の朝のニュースを始める〔トーア(Tohá)大臣の名前が出てくるが、DVDの日本語版では内相と訳している。しかし、彼は1973年には国防相なので、意図的な誤訳(英語字幕は、“大臣”〕〔トーアは、ピノチェト軍治独裁下で翌1974年3月に拷問死した〕。その後、ゴンサロの乳母が作ったサンドイッチを、「ゴンサロ坊ちゃま、全部食べるのですよ」と言って渡す。父と一緒に家を出ようとして、夫婦部屋に行くと、母は、だらしない格好で横になったまま、「行ってらっしゃい」と腕を上げただけ。父は、学校の前までゴンサロを送って行く。学校の銘板には、「セント・パトリック/英語男子校」と書かれている〔実在のヘラルド・ウエラン神父が校長だったのは、セント・ジョージ〕。ゴンサロのクラスでは試験が行われている。ゴンサロの1つ後ろの席に座っている虐めっ子ガストンが、後ろから腕を引っ張り、「見ろ」と窓の外を見るよう強制する〔2人は窓際の席〕。すると、男性に連れられた5人の子供達の列が2組見える。ゴンサロが何だろうと思って見ていると、突然教室のドアが開き、校長のマッケンロー神父が5人の先住民系の普段着の子供達を連れて入ってくる(1枚目の写真)。そして、「英語校」と書いてあるのに、スペイン語で生徒達に話しかける。「掲示板を読んだ諸君は知っていると思うが、学校に変化が訪れた。君たちに新しい級友ができる。彼らは学校の近くに住んでいるので〔これは、ペドロ・マチュカに限れば全くの嘘〕、君たちも多分見たことがあるだろう」(2・3枚目の写真)。新参の5人のうちの1人の母親は、生徒の1人の家の洗濯女だった。
  
  
  

こうした状況下で、神父は、「兄弟や新しい親友のように、暖かく迎えてあげよう」と、いわば強制する(1枚目の写真)。ここで、新しい机とイスが運び込まれ、新参者が固まらないよう、ゴンサロの後ろのガストンが移動させられる。そして、そこに座らせようと、ペドロに名前を訊く。ペドロは、口ごもった早口で名前を言ったため、神父は3度名前を訊き、最後に、ペドロは大声で怒鳴る(2枚目の写真)。それを聞いて、生徒達は、ゴンサロも含めて笑う(3枚目の写真)。こうして、ゴンサロとペドロは、席が前後で隣り合う〔こうした方針は、神父が提唱する「統合プロジェクト」によるもので、貧富の格差が極端に大きな国で、しかも、その国が共産党の政権下にある場合、妥当なものだったかもしれない。しかし、革命でなく民主的な選挙によって世界で唯一の共産党政権が誕生したのは1970年。その政権末期の1973年に突如として導入されたこのプログラムは、高い授業料を払ってチリでNo.1の私立校に入学させた親から見れば、賛同が困難なものだった〕〔そもそも、英語も話せないのに、なぜ入学させたのだろう?〕
  
  
  

昼休みの時間。ゴンサロが内庭のベンチに座りサンドイッチを取り出すと、さっそくガストンが寄って来て、「1人か? 何のサンドだ?」と訊き、ゴンサロが手渡すと(1枚目の写真)、そのままかぶりつく。「イケるな。欲しいか?」とゴンサロに訊き、彼がつかもうとすると、後ろに控えた3人の手下の1人に 笑いながら渡す。そして、3人が順に食べる〔ゴンサロは、何一つ食べられなかった〕。ガストンは、次に、内庭に1人で立っているペドロに、「マチュカ、こっちへ来い」と呼び付ける(2枚目の写真)。ガストンは、「遊ぼうぜ」と手下に声をかけると、ペドロに近づいていき、「おい、マチュカ、俺の名前は… ガストン・ロブレスだ!」と、ペドロが神父に向かって叫んだ真似をする。そして、「冗談だ」と言って肩に手をやろうとすると、振り払われたので、「無愛想な奴だ。どうでもいいがな。だが、机を替われ」と言う〔ガストンは、いつもゴンサロをカンニングしていた〕。「どうして?」。「友だちの近くにいたい」。「彼が替わればいい」。それを聞いたゴンサロは首を横に振る。「こちとら、親切なんだぞ。ただ乗りしやがって。誰がお前の授業料を払ってると思う? なのに、指図する気か? 何て奴だ」(3枚目の写真)。「文句なら神父に言えよ」。ペドロも、負けてはいない。
  
  
  

その日、学校の終わるのを待っていたのは母。激しくキスするので、ゴンサロは嫌がる(1枚目の写真)。母が運転する車は黒。朝、父が送って来た時は白い車だったので、両親がそれぞれ車を持っている。母は、運転しながら 「学校で 何かあった?」と訊く。「ううん、何も」〔神父による大変革のことは何も言わない〕。そう言いながら、ゴンサロは1人で歩いているペドロを、振り返りながら見ている。母は、「用事を済ませないと」と言い出す。「またなの?」。「そうよ」(2枚目の写真)。「宿題があるよ」。「向こうで、できるわ」。車が途中通るコンクリート壁には、「NO A LA GUERRA CIVIL(内戦に反対)」と書かれている。よほど用事に時間がかかったのか、車が家に着いた時には 辺りは真っ暗になっている。ゴンサロの手には 『ローン・レンジャー』のコミック版の第1巻が置かれている。母は 「楽しかったでしょ?」と訊くが、ゴンサロは黙ったまま 下を向いている。「ロベルトの贈り物、気に入った?」。今度は、じっと母の顔を見る〔ゴンサロは、母がロベルトという年配の金持ちと親しく会っているのを喜んでいない〕。そこに、車のクラクションで飛んできたゴンサロの乳母が、後部座席から段ボール箱を取り出して家まで運ぶ。箱の中には、各種の日常品が一杯詰まっている(3枚目の写真)。母は、闇市で仕入れたことを夫に自慢するが〔多分、ロベルトからもらった〕、父は、「買い過ぎだな。余ってるじゃないか」と批判する。母は 「ある時に買っておかないと」と反論。この父は、FAO(国連食糧農業機関)に勤務しているらしく、ある意味、現状認識に乏しい。さらに、『ローン・レンジャー』を見つけた父は、「これも、闇市で買ったのか?」と訊き、母が 「何て愚問なの」と答えると、それ以上追及しない〔このコミック本は、“Gold Collectionの初版本 ” なので非常に高価らしい。それに対して、この “愚問” で納得しているということは、父は 母とロベルトの関係を知って、容認しているとしか思えない〕
  
  
  

学校の水泳の時間。水着をはいてプールにいる生徒達の前に、校長がパンツ姿の5人を連れて来る(1枚目の写真)。ガストンの手下の生徒の1人が、その姿を見て、「¡Que se lanzan los de polera negra!」と嘲る。「黒シャツなんか着てないで脱げよ」というような意味だが、肌の色が少し黒いことを皮肉ったのだろうか? 神父は、すぐにその生徒を呼び寄せ、プールから引っ張り出すと、「君は、互いに尊敬し合うことを学びなさい。それが、この学校で 君が学ぶ唯一のことだとしてもだ!」と、激しい調子で叱る(2枚目の写真)。そして、プールの方を向くと、「私は、君たちが誰で、どこで生まれたかなど気にせん! ここでは、お互いを尊敬するんだ!! 分かったか!?」と、怒鳴るように言う〔叱り方が激し過ぎて 観ていて神父らしくなく、不愉快感すら覚える/つまり、あまりに独善的で、“校長と生徒” の間にもあっていいはずの “お互いの尊敬” を完全に忘れ、怒鳴りまくっているだけ〕。プールに飛び込んだペドロは、思ったより深くて足が届かず、泳げないので焦ってしまう」。
  
  

生徒達が、校舎の間にある菜園で農業実習をしている。ペドロが土の中から芋のような物を掘り出していると、背中に土くれが投げつけられる。振り返って見るが、全員が実習をしていて誰だか分からない。そのうちに、ゴンサロが自分を見たので、てっきり犯人だと勘違いし、「やい! ロクデナシ!」と批判する。ゴンサロは、いきなりそんなことを言われたので、隣にいたガストンに、「あいつ何なんだ?」とブツブツ。すると、今度は、ゴンサロとガストンの頭に 土くれが投げつけられる。2人は体を起こして犯人を窺うが、どこにもそれらしき生徒はいない(1枚目の写真)。その後で、5人の新参者のうち、一番体が大きくて一番根性の曲がった不良が、ニヤニヤするので、すべてはこの悪ガキの仕業だ。ところが、農業実習が終わると、ガストンは 「来いよ、いいものを見せてやる」と言って、ゴンサロを強制的に連れ出す。ゴンサロが連れて行かれた先に見たものは、3人の手下に両腕を拘束されたペドロの姿だった(2枚目の写真)。ガストンは、「さあ、奴を殴れ。俺たちに土をぶつけたんだぞ。ビクビクすんな。殴れ!」と、ゴンサロを焚き付ける。しかし、おとなしいゴンサロは 何もしない。そのうちに、ペドロがガストンのセーターに唾を吐きかけ、怒ったガストンは、「これがビタクラ(Vitacura)〔セント・ジョージ校が実際にある場所〕流のやり方だ」と言うと、ペドロの腹部に強烈な一発を食らわす〔この部分のDVDの日本語字幕は、「この豚小屋野郎、俺らをナメるな」となっているが、どう見ても意訳し過ぎ〕。ガストンは、ゴンサロにペドロを殴るよう、「ビクビクすんな! 殴れ! 怖いのか? 一度くらい男になれ!」とけしかけるが、ゴンサロは何もしない。そこで、ガストン、プラス、3人から 「弱虫!」と侮辱されたので、ペドロにぶつかって行き、3人の手下から解放させる。ペドロは、逃げて行く4人に向かって石を投げ、ある程度離れた4人が 今度はペドロに石を投げる。争いから逃げ出したゴンサロに、ガストンは 「オカマ!」と叫んで石を投げる。それが額に当たったゴンサロは、その場にしゃがみ込む(3枚目の写真)。
  
  
  

学校が終わった後、正門の前の歩道に座り 母の車を待っているゴンサロの前に ペドロが寄って来て、「やあ」と声をかける。「痛いか?」。「ううん」(1枚目の写真)。「帰らないのか?」。「迎えの車がまだ来ない」。「乗ってくか?」。ペドロが指した先には、古びたトラックが。「いや、いいよ」。「なあ、ちょっと待ってろ」。ペドロは、トラックまで走って行くと、「やあ、伯父さん。友だち乗せてくれる?」と訊く。「いいぞ。だが、急げ」。横に乗っていた伯父の娘シルバナは、「そんな場所ないよ」と文句を言うが、ペドロはゴンサロを手招きする。トラックに乗ったゴンサロを見て、伯父は 「君、どこから来たんだ? “Cara de frutilla(いちご顔)”」と訊く。それを聞いて2人は笑う(2枚目の写真)。すっかり友達気分だ。伯父:「すごく素敵な学校じゃないか」。ゴンサロ:「学校じゃない、カレッジだよ〔実際の正式名称はセント・ジョージ・カレッジ〕」。「そりゃまた失礼しました。どこまで参りましょう?」〔おどけて丁寧に言っている〕。ゴンサロが住所を告げると、伯父は口笛を吹く〔高級住宅地〕。ゴンサロがシルバナに、「これから どこに行くの?」と訊くと、「仕事よ。あんたみたいな金持ちの坊やは やったことないような」という返事。伯父はそんな娘に、「いいか、ちゃんとやれ。仕事だ。小旗を間違えるな。お前、この前 間違えただろ。ひやひやしたぞ」と注意する。ゴンサロが言った場所まで来ると、ゴンサロは降りずに3人と一緒に行く方を選ぶ。トラックが最初に向かったのは、保守派のデモ。「¡20 años para adelante! ¡3 años para atrás!(20年前進、3年後退!)」と、アジェンデ政権の3年間を批判するスローガンをくり返す。この人々が手に持っていたのは、5枚目の写真の中央下の「国民党」のもの。シルバナは、国民党と国旗の小旗を数本ずつ両手に持って、旗を持っていないデモ参加者に売っている。そこに、ゴンサロが寄って行くと、「まだいたの?」と言われる。そのうち、小旗を全部売ったペドロが戻って来て3人が一緒になる(3枚目の写真、シルバナの小旗は国民党)。売れ残った国民党の小旗が、伯父の木箱に戻されると、次にシルバナが取り出したのはソ連国旗とチリ社会党の小旗。若者が叫ぶスローガンは「JJ-CC(チリ共産主義青年)!」。デモ参加者が掲げる大きな旗の中には、「人民連合」〔5枚目の写真の左上〕、「チリ共産党」〔同右上〕、そして、アジャンデの顔の絵も見られる。ゴンサロも旗売りを手伝っている(4枚目の写真、小旗はチリ社会党)。5枚目の写真の上半分が左派、下半分が中道(「キリスト教民主党」)と右派。特に右下の「FNPL」は急進派で、ゴンサロの姉の彼氏はFNPLの強力な支持者。
  
  
  
  
  

場面はいきなり変わり、母の運転する黒い車に乗ったゴンサロが、マンションの地下駐車場の専用区画に入って行く。隣に停めてあるのはメルセデス300SEL3.5。明らかに、ゴンサロの父よりは金持ちだ。2人は、そのままエレベーターに乗って母の不倫相手のロベルトの部屋へ。ゴンサロはそんな母にイライラを募らせているが、態度にはほとんど出さない。混血でない召使がドアを開け、2人を愛想よく部屋に招じ入れる。中は広くて豪華。母は、この訪問のために新調した洒落たワンピース姿で、どんどん部屋の奥に入って行く。2人が仲良く抱き合っているのを見たゴンサロは、毎度のことかもしれないが、憂いがかった顔をしている。3人は、食卓テーブルに座るが、母に 「お腹空いてない?」と訊かれ、「ううん」と答えたゴンサロに、ロベルトが、おどけて、「どうした、キャプテン?」と訊く。母は、「学校のせいよ。狂ってる。これ以上最悪なのは、子供たちが撃たれることくらい」と批判。「わしの耳にも、その話は伝わっている。なんでも、神父が少し赤いとか。そうかね?」(1枚目の写真)。「国中がそうでしょ」。しばらく話した後で、母が席を立っていなくなると、ロベルトは、「君にあげた本、読んだかい?」とゴンサロに尋ねる。「『ローン・レンジャー』は好きじゃないんです」。「よかったら、他のを試してみたいか?」。「いいえ」。「今度 ブエノスアイレスに行ったら、君が心変わりした時用に、もう1冊持ってきてあげよう。どうだね?」。ゴンサロは、何も言わずに じっとロベルトを見つめている。ロベルトが、「くつろいでいなさい」と言って席を立つと、召使がお菓子の袋の入った大きなダンボール箱を持って来る(2枚目の写真)〔1973年は606%のハイパーインフレとなり、食料品が店舗から姿を消し、闇市場で入手した貴重品をこうやってダンボール箱に入れて隠し持っていた〕。ゴンサロは、guagüitasというチリの伝統的なグミ菓子の袋を選ぶと、食べながら部屋のあちこちを覗く。そして、ロベルトと母が一緒にいる寝室のドアに耳をつける(3枚目の写真)〔何が聞こえたのか、観客には分からない〕
  
  
  

学校で、再び試験の日。手渡された試験用紙を見て、ニコニコしていたペドロの顔が凍り付く。問題もすべて英語で書かれていて、何一つ理解できなかったからだ〔英語を知らない貧困層の子供を、英語学校に入れること自体矛盾している〕。問題は、I)複数形に変えなさい、で8問。例えば、「There is a table」。II)単数形に変えなさい、で8問。例えば、「The children are in the garden」。III)は見えない。ペドロは、ゴンサロを見ようとするが見えない(1枚目の写真)。丸めた紙がガストンからゴンサロに飛んできて、助けてくれと意思表示するが、離れているので何もできない。ペドロには何もすることがないので、辺りを見回していて、机の上に目を戻すと、試験用紙がなくなっている。あちこち見回すがどこにもない。すると、ゴンサロが答案用紙を後ろに置きながら、立ち上がる(2枚目の写真)。ペドロが見ると、答えがすべて書いてある〔100点を取っては疑われるので、「There is a table」はそのまま、「The child in the garden」は一部書き忘れたフリをするなど、工夫してある〕。ゴンサロは教師に試験用紙を渡して部屋を出て行く。何も分からないペドロは、満点だと思い、ニコニコして空欄に自分の名前を書く。学校が終わった後、ペドロはゴンサロの自転車の後ろに立ち乗りして家まで送ってもらう(3枚目の写真)。
  
  
  

自転車は、サンティアゴの町からかなり離れた “グラウンドの外れに並ぶスラム” を見下ろす高台に着く(1枚目の写真)。ペドロは、「ありがとう。またな」と言って、歩いて行こうとする。ゴンサロは、「ねえ、何なら、家まで乗せてこうか?」と声を掛ける。ペドロは、最初断るが、考え直し、指笛で呼び戻す。そして、自分が運転し、ゴンサロを後ろに立たせてスラムの中に入って行く(2枚目の写真)。建っているのは、ありあわせの物で作った掘立小屋ばかり。如何に貧富の差が激しいかが痛いほど分る。ペドロは、途中の泥道で作業をしていた母に、「やあ、母ちゃん。友だち連れてきた」と呼びかける。「家にお行き。お茶〔once〕を入れるわ」。しかし、母は、立派な服装の友だちに精一杯のもてなしをする。食料が払底する中で、コーンビーフならぬコーンポークの缶詰が開封され、ペルー風のパンとミルクも用意されている。でも、ゴンサロは何も食べない。「お腹空いてないの? なぜミルクを飲まないの?」。「そうじゃないんです。トイレありますか?」(3枚目の写真)。ペドロが 「ないはずないだろ」と笑う。母は、家の裏にある小さな小屋だと教える。ゴンサロが小屋に入り、便器を見ると、水洗ではなく、便座の下10センチまで汚物が溜まっている。ゴンサロは、あまりの悪臭に息を止めて用を足すと、すぐ外に出て大きく息を吐く。すると、真正面にシルバナがニヤニヤしながら立って見ている。
  
  
  

シルバナは、ペドロの家の前に放置してある自転車の前に立つと、「気を付けな。ここらの奴らは、みんな盗っ人だから、あっという間に消えちゃうわよ」と注意する(1枚目の写真、ペドロの家が如何に “寄せ集めの材料で作られている” かが良く分かる)。ゴンサロは、さっそく自転車を家の中に入れる。シルバナが勝手に家の中に入って行くと、ペドロの母が 「入る時にはノックなさい」と注意する。しかし、シルバナは 「世話の焼ける坊や〔niño de papi〕と一緒に入ってきただけ」と、謝りもしない。ゴンサロが好きになったペドロは、「名前はゴンサロだよ」と注意する。シルバナは、ペドロの母から赤ちゃんを受け取ると、奥のベッドに座ると、「ねえ、お上品君〔pituco〕、座りなよ」とゴンサロを呼ぶ。ペドロは、「ゴンサロだってば」と、再度注意。それでも。ゴンサロは、素直にシルバナの隣に座る。シルバナは、今度は、ゴンサロに、「あんた、お上品君の学校で何を学んだの?」と訊く。ゴンサロは、3度目に「ゴンサロ」と注意した後で、シルバナの前に座りながら 「英語さ」と自慢する(2枚目の写真)。「何か言ってみなさいよ」。「Good Morning」。「そんなの あたしでも知ってる。他には?」と言った後で、「ロシータは可愛い」を英語で言わせる。ゴンサロは、全く言えないので、適当にごまかし、ゴンサロは思わずニヤニヤする。次の問題は 「チリの大統領はサルバドール・アジェンデだ」。今度も、モゴモゴ。ゴンサロの顔はますますニヤニヤになり、思わずシルバナと目が合う(3枚目の写真)。これで嘘が完全にバレる。
  
  
  

試験の答案が1人ずつ返される。教師は 「Very good」と言ってペドロに試験用紙を返す〔教師の言葉を理解したとは思えない〕。そして、「Good effort」と付け加える。ペドロが試験用紙を見ると、「4.5」と採点されている。そのあとでゴンサロにも、「Very good」と言って返却される。すぐにペドロが 「何点だった?」と訊く(1枚目の写真)。「7」(満点)。それを聞いたペドロは、ふてくされたような顔になる。その後、体育の授業の場面となり、生徒達を50メートル(?)競争のスタート点で待たせておきながら、神父が、その前方で、ボクシングの真似を1人で長く続けるシーンがある。それが終わると、「ボーイズ! 用意!」と叫んでおいて、「ドン」と言う前に、自分だけ走り出す。10メートルは先行しているので(2枚目の写真、神父の左がゴンサロ、右がペドロ)、余裕をもってトップでゴール。両手を挙げて何度もバンザイ。生徒達は白けているので、パフォーマンスでもない〔この神父、独善的な上に、こうした卑怯な面もあり、観ていてますます反感を覚える〕。2位はペドロだったが、ゴンサロがお祝いの手を差し出しても 振り払う。その後のシャワー室で、ゴンサロは、「怒ってるのか? バカだな、もし君が7点取ったら、2人とも罰せられちゃう。常識だろ」と教える(3枚目の写真)。そのあとで、「今日、姉さんの誕生パーティなんだ。つまらないし、家じゅうバカどもで一杯になる。親はいないし、何かあるといけないから、家にいろと言うんだ。姉さんをボーイフレンドと放っておくのが心配なんだ」と言って、手でセックスの真似をする。ペドロは「一緒にいてやってもいいぞ」と言う〔少し、図に乗っている〕
  
  
  

ペドロは、初めてゴンサロの家に入って行く。何もかも立派なので驚く。2人はすぐにゴンサロの部屋(2階)に行こうとするが、姉のボーイフレンドに呼び止められる。「『やあ』ぐらい、言えよ」。ゴンサロは 一言。「やあ」〔余程嫌い?〕。「新しい友だちか?」。「うん」。「新入りの1人だな?」。ゴンサロは何も言わない。「何て名だ?」。ペドロが名乗る(1枚目の写真)。「ペドロ、何だ?」。「ペドロ・マチュカ」。ボーイフレンドは、「こいつら変な名前してやがる」と笑う。そして、ヌンチャクを見せると、ペドロの前で振り回し始める。危険な至近距離だが、ペドロは一歩も引かない。解放されて部屋に行ったゴンサロは、「言ったろ。あいつはバカ野郎だ」。「平気さ」。ペドロは、ベッドの真上の壁に貼ってあるローン・レンジャーのポスターを見ている〔ゴンサロは、ローン・レンジャーのファンらしいので、稀覯(こう)本に興味を示さなかったのは、母や 浮気相手の前だったから〕。ゴンサロはYシャツを脱いで裸になると〔下着のシャツは着ていない〕、Yシャツを棚のハンガーに掛け、着る物を選ぶ。それを見たペドロは、「それ全部 君の?」と訊く。「だいたい。いとこからのお下がりもあるよ」。ペドロは、アディダスの運動靴を見つけ、手に取ると 「すごいや!」と感激する。靴には 「ドイツ製」とある。「履いてみたい?」(2枚目の写真)。ペドロは喜んで履いてみる。「君のパパって、いい人だな」。「パパじゃない。ブエノスアイレスのママの友だちがくれたんだ」。夜になり、姉の誕生日パーティが始まる。大勢の若者が集まる中で、ペドロはテーブルに並んだ食べ物にご満悦。一方、ゴンサロは姉とボーイフレンドを監視している。それに気付いたボーイフレンドが姉に報告し、姉が近寄ってきて、「何、見てるの?」と訊く。「何も」。「じっと見てた」。「別に」。言質を取れなかった姉は、今度は、手に持ったアルコール飲料をゴンサロに飲ませ、「飲んじゃいなさい。ママはいないのよ」と言ってグラスを渡す。ゴンサロとペドロは2人でグラスを飲み合い、姉の監視どころではなくなる(3枚目の写真)。
  
  
  

深夜になり、両親が帰ってきたので、2人はゴンサロの部屋に逃げ込む。そこには、ゴンサロの乳母が準備したのか、ゴンサロのベッドの横にマットレスと布団が敷いてある。2人の耳に、両親の会話が聞こえてくる。「次は、いつ私を招く気だ? 君の友達連中は、鼻持ちならんな」。「ヒレ肉のステーキ、おしそうに食べてたじゃない。シーバス・リーガル〔スコッチ〕も」。「上等のウィスキー以上の媚薬はない」。「やめてよ、この酔っ払い」。このあたりまでは、2人もニコニコして聞いていた(1枚目の写真)。しかし、話はどんどん喧嘩腰になっていく。何かしようとして、「イヤらしいことしないで〔No sea ordinaria〕」と言われた父は、「いやらしい人間というのは、さっきまで一緒だったお前の友達みたいな奴らだ。女たちはバカ話しかせんし、男どもは金にしか興味がない。あのバカどもの興味は 商売や利益だけだ」と激しく批判。母が「少なくとも、誇れるものがあるわ」と言うと、「誇れるもの? お前をか? 違うか?」と、母とロベルトの関係を暗に示唆。「何が言いたいの?」。「何と言って欲しい?」。「分からないわ。何か言いたいことがあるのなら、言って。じゃないのなら、黙って」。「俺が望むことは一つだけ。ゴンサロを巻き込むな。いつもあいつを連れ回してるじゃないか」。ずばり指摘され、不敵にも怒った母は、寝室に籠って父を締め出す。「ドアを開けろ!」と命じても、「どこか他で寝て」。ここまで開き直った母の態度に、ゴンサロはペドロに恥かしく、顔を背けて寝てしまう。翌朝、2人がぐっすり寝ていると、ドアが開き、母が 「お早う」と声を掛ける。見慣れない子に、「この子は?」と息子に訊く。「友だち」。「あなたの名前は?」。「ペドロです」(2枚目の写真)。「見たことのない顔ね」。ロベルト:「新入りだよ」(3枚目の写真)。「学校の?」。ペドロ:「はい」。そのあと、母は、ロベルトからの贈り物として、『ローン・レンジャー』の第2巻を渡すが、昨夜の今朝なので、ありがとうとも何も言わない。ところが、母がいなくなり、ペドロが本を見て 「すごいや、貸してよ」と言うと、態度が豹変し、第1巻を渡し、第2巻は自分で読む。
  
  
  

開いている1軒の商店の前に、大勢が詰めかけている。やっと最前列まで来たゴンサロが、「コンデンスミルク3缶」と言うと、「3つ? 1家族2つまでだ」と言われる(1枚目の写真)。「乳母が3つ買えるって」。「乳母に 並びに来いと言うんだな」。ゴンサロが人込みから出て来ると、列を作っている人達にシルバナがタバコを1本ずつ売っている。ゴンサロを見つけたシルバナは、「やあ、お上品君」と、相変わらず名前で呼ぼうとしない。シルバナは、ゴンサロがコンデンスミルクを持っているのを目ざとく見つける。「ちょっと飲ませて」。「ダメ。缶が開いてない」。そんなことで容赦するシルバナではない。「ねえ、開けようよ」。「ダメ」。「2つあるじゃない」。「ダメ」。結局、河原に連れて行かれたゴンサロの前で、シルバナは石で缶に2ヶ所穴を開ける。そして、さっそく試飲。「おいしいよ。飲んでみて」。ゴンサロがごくごくと飲むので、「やめなよ、おっぱいに吸い付く赤ちゃんじゃあるまいし」と制し、少しずつ飲むよう注意する。そして、「そんなことも知らないのに、何で学校なんかに行くの? 特に、ペドロみたいな怠け者が」と訊き、後半の部分にゴンサロがニヤニヤする(2枚目の写真)。「バカになるんなら、勉強なんか要らないわよね? 神父さんも無駄骨だし」。「君、どこの学校に行ってるの?」。「どこにも。つまんなかったし、家の仕事もあるから」。シルバナは、缶を取り上げると、口に入れると、「目を閉じて」と言う。ゴンサロが目を閉じると、キスし、ミルクを流し込む。「子供にしちゃ、キス上手ね」。そして、「もっと?」と訊く。そして2回目のキス。そこにペドロがやってくる。当然、彼も同じことをしたがり、2つ目の缶にも穴が開けられる。今度は、シルバナとペドロがキス。キスごっこは、次第に長く激しくなる(3枚目の写真)。
  
  
  

生徒達が構内の菓子屋の前に列を作っている。ゴンサロがキャンディーを2本買うと、そのうち1本〔ペドロ用〕が、あっという間に後ろの生徒に奪われ(1枚目の写真)、最後にはガストンの手に渡る。ガストンは、キャディーを持つと、「おい、マチュカ、取ってみろよ」と挑戦する。ゴンサロは、「ほっとけよ。もう1本買うから」と ペドロに言う。それを聞いたガストンは、「ガールフレンドの言う通りだ。カノジョは優しいからな」と冷やかし、それを聞いた生徒達は、「2人は恋人〔novios〕!」とからかう(2枚目の写真)。その上、ガストンが、「ペドロ、これ欲しいか?」と言うと、キャンディーをズボンの前に持って行き、「ほら、しゃぶれよ」と言ったので、我慢できなくなったペドロがガストンに飛びかかる。ゴンサロが加勢に入るが、生徒達が入り乱れて勝負がつかない。そこに、以前、菜園で3人に土くれを投げて争いの種を蒔いた不良がその輪の中に入って行くと、一撃でガストンを倒す(3枚目の写真)。その後のシーンが、映画の中で一番不愉快だ。神父の部屋に呼ばれた6人の中に、暴力を振るった不良が入っていない。そして、ガストンは当然だとしても、犠牲者のゴンサロとペドロも6人の中に入っている(4枚目の写真)。そして、この傲慢な独りよがりの神父は、6人に向かって 「君たちには失望した。何という傲慢さが取り付いたんだ」と、自分のことを棚に上げて叱る。その後で、ゴンサロに、「君は、動物のように振る舞うよう、他人を強要する。君が考えるのは、自分のことだけだ」と言い聞かせる。ここでの問題点①。神父は、なぜ生徒の名前を言わないのか? 問題点②。ゴンサロのやったことを調査したのなら、なぜゴンサロを倒した不良がいないのか? 問題点③。なぜ純粋に犠牲者のゴンサロがいるのか? 神父は、他の5名に向かって、「君たちは学校で何も学ばなかったのか?」と言う〔神父も 何一つ学んでいない〕。ペドロの前に立つと、「君は、拳で尊敬を勝ち取れると思ったのか?」と叱る。この神父が、尊敬を勝ち取れるとは、どう見ても思えない。
  
  
  
  

ゴンサロの一家がレストランで食事をしている。父は、娘とゴンサロのグラスにも赤ワインを注ぐ。母が反対しても、「なぜ? 2人とも学ばないと。でないと、抑えきれなくなる。私が赤ちゃんの時、両親はおしゃぶりをワインに浸したものだ」と反論(1枚目の写真)。娘は、「パパ、これから出張が増えるの?」と訊く。「ローマにな。FAO(国連食糧農業機関)の本部がある」。ゴンサロが、「そこじゃ、何語を話すの?」と訊くと、姉が 「イタリア語よ、バカね」と言う〔FAOの公式言語は英語、フランス語、スペイン語、アラビア語、中国語/姉の批判を訂正しない父もいい加減〕。娘と母は、それを聞いてお土産のおねだりを始める。そして、帰りの車のシーン。父が 突然、「みんなでイタリアに住もうじゃないか」と言い出す。「ローマに行こう。転属は簡単だ」(2枚目の写真)「こっちの状況を考えてみろ。最悪じゃないが、あっちの方がずっといい。おまけにドルでもらえるしな。チリには社会主義がいいかもしれんが、私たちには違う」。ロベルトと別れたくない母は、笑って相手にしない。ゴンサロが、「そうだよ、ママ、楽しいよ」と言うが、ボーイフレンドと別れたくない姉は、「イタリア語、話せないじゃない」と反対する〔ローマの英語学校に通えばいい/ここでも、父は反論しない〕。母は、沈黙することで、反対を貫く〔父は、映画の中で 一番存在感がない〕
  
  

場面が変わって、ロベルトのマンション。いつも通り、母に無理矢理連れて来られたゴンサロは、一晩ソファで寝ている。そして、早朝、犬の激しい鳴き声で目が覚める。ゴンサロがテラスに出てみると、下では、野犬の捕獲員たち(?)が何匹もの犬を捕えては箱に入れている。可哀想に思ったゴンサロは、寝室のドアを叩いて 「ママ!」と何度も呼ぶ。これに対し、ロベルトが 「何だ?!」と怒鳴るようにドアを開ける。「下に男たちがいて、犬を捕まえては殺してるよ!」(1枚目の写真)〔殺してしているかどうかは不明〕。ゴンサロのノックが善意によるものだと分かると、ロベルトは、「落ち着いて。大丈夫。危険はない」と宥め、「TVでも観てなさい」と優しく言って部屋に戻って行く。その時、ドアの隙間から母のあられもない姿が ゴンサロの目に入ってしまう(2枚目の写真)。
  
  

ゴンサロとペドロは、壁の前でシルバナと待ち合わせ、市バスに乗る。コンクリート壁に書かれていた文字は、「NO」が塗りつぶされ、「A LA GUERRA CIVIL(内戦だ)」になっている。バスの中で、シルバナは、「ゴンサロ、あんたホントに映画代持ってるの?」と訊く〔ゴンサロに3人分払わせる魂胆〕。そして、さらに、「お金を持ってたら、バカなことには使わない。自分の店が欲しいから。通りで売るのはくたびれちゃった」と話す。ペドロが、「マッケンロー神父みたいな神父になりたい」と言い、ゴンサロも賛同する。すると、シルバナにからかわれ、「神父ってのは、セックスなしよ。あんたたちみたいな色ボケにはムリね」と言われると、ペドロが、「色ボケはそっちじゃないか」と反論。それで嫌われたのか、映画館に入ると、シルバナはゴンサロにべったり(1枚目の写真)。映画が終わると、3人はペドロの家に行く。ペドロはドアにもたれて 『ローン・レンジャー』を読んでいるが、ゴンサロは その前で踊っているシルバナをボーっと見ている(2枚目の写真)。そこにやって来たのが、ペドロのロクデナシの父。ペドロの母:「何しに来たの?」。「金はどこだ?」。「お金なんかないわ」。「ないだと?」。ロクデナシは、小銭の入った缶を持って家から出てきたが、それを取り返そうとペドロの母が、殴る蹴るの大奮闘。最後は何とか取り上げて、「この恥知らず。迷惑かけることしか考えないのね!」と、吐き捨てるように言う。ロクデナシは、ゴンサロを見つけると、「そいつ誰だ?」とペドロに訊く。「友だち」。「友だちだと。5年後、お前の友だちはどこにいるか知っとるか? 大学だ」。「あっちに行けよ」。「お前は、便所を掃除だ。10年後、お前の友だちはパパさんの会社で働いとるだろう。お前は まだ便所掃除だ。15年後、お前の友だちはパパさんの会社の社長だ」(3枚目の写真)「で、お前は、どうなっとると思う? やっぱり便所掃除だ」。
  
  
  

学校での集会。マッケンロー神父が司祭服で現れ、「ご両親の皆さん。当校の現状についてお話ししたいと思います」と述べる(1枚目の写真)。すると、すぐに一人の母親が、「神父さん、申し上げたいことが。学校での最近の暴力行為は容認できません! 私の息子は毎日喧嘩していますが、その原因は、いつだって新しい子供たちなんです!」と、学校の方針を批判する。それに対し、ざわめきが起き、ゴンサロの父が、「ちょっと待って。今、起きていることは、ある程度、我々全員に責任があるんですよ」と、鎮めようとする(2枚目の写真)。しかし、こんな官僚主義的な姿勢が賛同を得る訳はなく、1人の父親が立ち上がり、「お静かに。私の意見はこうです。犯人はただ一人。神父さん、あんただ! 私らの子供たちを啓蒙すると称して、知る必要もない子たちと一緒にしている! これは洗脳だ! そんなことはさせんぞ!」と、神父に対する個人攻撃に転じる(3枚目の写真)。
  
  
  

この攻撃に怒った神父は、「すべてのご両親には 前もって学校の方針をお知らせした! お気に召さない方は、当校をやめてもらって結構!」と、これまた、一方的な切り捨てを、微塵の自己反省もなく、強弁する。その態度に頭に来た別の母親が、「なぜ、あんたが辞めないの?! この共産主義者!!」と怒鳴る(1枚目の写真)。その あまりの激しさに、ゴンサロは驚くが(2枚目の写真)、ペドロはその顔を見て “こんなもんさ” という顔をする(3枚目の写真)。ゴンサロの父の真後ろに座っていた男性は、立ち上がると、「まあ、ちょっと待って。神父さんの方針には、ここにいるかなりの父兄が賛同してるんだ! 我々の多くは、子供達に、平等で真に民主主義的な教育をして欲しいと願っている!」と言い、多くの参加者(貧しい新参生徒の親+アルファ)から拍手が起きる。すると、顔は映らないが、「拍手なんかやめろ! このキチガイ神父は、学校を破産させる気だ!!」と 激しい野次が飛ぶ。神父も 「生徒たちがやってる農場から、すぐに収益が出る! 僅かな赤字はそれでカバーできる!」と 強く反論。それに対し、別の男性が座ったままで批判する。「神父さん、あんたも知ってると思うが、私はあんたの農園に30頭の豚を寄付した。共産主義者どもが、盗もうとしたからだ。なのに、その豚が、予防接種をしなかったから死にかけてるって聞いた」。それに対する神父の返事は最悪。「確かにそうです。それは、あなた方の子供たちにとって経験となるでしょう」。これは、無責任な責任回避以外の何物でもない。
  
  
  

ここで、さらに別の男性が立ち上がると、神父に背を向けて聴衆に語りかける。「私は 神父は間違ってると思う。これは、一種の強権的介入〔paternalismo/強い立場にある者が、弱い立場にある者の利益のためだとして、本人の意志は問わずに介入・干渉・支援すること〕だ。本人たちだって欲しくないんじゃないかな、そんな贈り物。それに見合うだけの努力を何もしてないのに!」。これに対し、ゴンサロの父の真後ろの男性は 「強権的なのは あんたじゃないか! 本人たちの意志をまるきり無視してる!」と反論、それに対し、さっきの男は、「大多数の人たちを代表して話してるんだ!」と再反論。ここで、ゴンサロの母が突然口をきく。「一つ訊きたいわ。なぜ、ナシとリンゴを混ぜるの? こんなに辛い思いまでして? ナシとリンゴ… 私は、それがいいとか悪いとか言ってるんじゃない。でも、私たちは違う存在なの」(1枚目の写真)。すると、今度は、ペドロの母が立ち上がる。「私が子供だった頃、サン・ニコラス〔サンティアゴの南南西360キロにある小さな町〕の近くの農場に住んでました。父は牛の世話をしてました。牛になにかあると、その分、月末に渡される食料が減らされました」(2枚目の写真)「原因に無関係にです。すべて父が悪いのです。私は15の時、サンティアゴに来ました。子供たちにそんな思いをさせたくなかったからです」〔その割に、ペドロには勉学意欲がまるでない〕「でも、ここでも同じなんです。悪いのは いつも私たち。それが運命なんです。同じことが続いていても、誰も あなたたちを責めようとはしません。時々、私は考えます。いつ変わるんだろうか? 変えるつもりがあるんだろうかと?」。すると、この会合の最初に発言した女性が立ち上がり、「性悪女〔Resentida〕!! 何、目論んでるのよ?! 誰もあんたの話なんか聞きたくない! 共産主義者は出ておいき!!」と怒鳴る(3枚目の写真)。この過激な発言を受けて、出席者は2つに割れて勝手な言い合いが始まり、喧嘩も起きる。
  
  
  

場面は変わり、「キリスト教民主党」、「国民党」、「祖国と自由のナショナリスト戦線(FNPL)」の合同のデモ。ゴンサロの姉の彼氏は、FNPLのヘルメットを被り、FNPLの腕章を付け、ヌンチャクを振り回している。そんな中で、ゴンサロは、また小旗売りに協力している。ところが、その小旗の中に「チリ社会党」の小旗が紛れ込んでいたので、慌てて捨て、足で踏みつける。一方、ゴンサロの母を含む強硬派の4人組の女性は、「共産主義者! 極悪人〔desgraciados〕! チリの厄介物!」と連呼しながら、車から身を乗り出してフライパンをスープレードル(お玉)で叩く(1枚目の写真)。問題が起きたのは、シルバナがタバコを1本、ゴンサロの姉の彼氏に売って火を点けた時。彼は、代金を払わずに行ってしまう。シルバナは、「お金、払ってよ」と言うが、相手にされない。そこで、「払いなよ、このドヤ顔のクソ野郎!」と凄む。彼氏がヌンチャクで追い払おうとすると、「何様のつもりだい、このバカ、この弱虫!」と怒鳴る。卑劣な彼氏は、シルバナを無視し続け、ゴンサロの母と話し、車より先に歩き出す。そんな彼氏に向かって、シルバナは唾を吐きかけるが、その唾は、ゴンサロの母の乗った車のフロントガラスに当たってしまう。それを、謝らなかったシルバナは、タバコ代を払わなかった彼氏の次に悪い。当然、車の持ち主は、自分の車に意図的に吐き掛けられたと思い、「こら、バカ娘、自動車をきれいになさいよ!」と怒鳴る。シルバナは、「何だよ、このクソばばあ!」と言い、謝ろうとも、きれいにしようともせず、罵るだけ。そこに、同乗していた2人が車を降りて参加し、シルバナを責め立てる。ゴンサロの母だけは、「まだ子供じゃないの」と庇うが、その横の女性に向かってぶつけたシルバナのバッグが母に当たり、今度は母が、「このクソチビ!」とシルバナを ど突く。「この、クソミイラ」〔母は痩せている〕。ゴンサロは、母とシルバナの争いを、茫然として見ている。シルバナは、4人を相手にして、罵り続ける〔ある意味、ロクデナシ〕。そんな恥ずべき姿を見たペドロは、見るにみかねてシルバナを連れ戻す。2人に向かって、母が 「家に帰りな! このカスども!」と怒鳴る(2枚目の写真)。ゴンサロは2人を追いかけて行き、裏路地に停めてあったペドロの伯父のトラックの荷台に3人で上がると、仰向けになって横たわる(3枚目の写真)。息が収まると、シルバナは、ゴンサロの母のことを、何度も何度も、淫売〔puta〕と罵る。シルバナの態度は最低だが、ゴンサロは、母がロベルトとセックスしているのを知っているので、何とも言えない。
  
  
  

神父が農園に駆け付けると、生徒たちに向かって、「気でも狂ったか?!」と怒鳴る〔この男、自分以外はみな間違っていると思っていて、すぐに怒鳴る。神父とは、とても思えない〕。年長の生徒が、「みんな死んでます、神父様。病気でした」と答える。豚の死骸が山と積まれ、それに灯油が掛けられ、火が点けられる(1枚目の写真)。この神父は、自分の奢りに気が付いたのだろうか? 場面は変わり、ゴンサロの家。父が、ローマに行く旅行の準備をしている。布のスーツケースには、着替えの服が詰め込まれ、ゴンサロが蓋の上に乗って、何とか閉めようとする(2枚目の写真)。結局、家族から見放された父に付いて行く者は誰もなく、1人での旅立ちとなった〔彼は、このあと、映画には出て来ない。短期ではなく長期の出張か、単身での転属のどちらかであろう〕
  
  

あれだけ母のことを罵られたのに、ゴンサロは、シルバナやペドロと一緒に、河原でまたコンデンスミルクを使ったキスごっこ。ゴンサロがシルバナにキスしていて、いきなり突き放される。「気を付けなよ、このバカ」(1枚目の写真)。「どうかした?」。「噛んだじゃないの、間抜け」。「ワザとじゃない」。今度は、ペドロが、「僕のキスで治してやる」と言いながらキスしようとするが、彼女は嫌がってキスさせようとしない。それをゴンサロのせいにしたペドロは、「この、バカ、みんな君のせいだ。なんで噛んだんだ? 口の中に何持ってる? カミソリか? バカは、ニンジンの頭で練習しろよ」と、友達を罵る〔やはり、育った環境が悪いのか? 神父の会合で理想論を述べた母の息子とは、とても思えない〕。元々不良のシルバナは、「お偉い坊やを虐めちゃダメよ。そのうち泣き出すから」と言うと、勝手にゴンサロの自転車を持って行く。ゴンサロが、「僕の自転車、返せよ」と言うが、シルバナの返事は、「自転車、ありがとね」。ペドロも止めずに一緒に走っていく(2枚目の写真)。ゴンサロは、本気で怒り、「返せよ!」と言いながら追いかける。そして、遂に禁句を。「クソったれ! ろくでなし〔hijos de puta/直訳すれば、「淫売の子(複数形)」〕!」。それを聞いたシルバナは、先日、ゴンサロの母を何度も淫売と呼んだくせに、自転車を放り出すと、ゴンサロの前まで行き、「今なんて言った、このバカ! あたしの母ちゃんは淫売じゃない」と、吐き捨てるように言う。今度はペドロがゴンサロの前に立つ〔直訳すれば “子(複数形)” だったので、ペドロも含まれる〕。ゴンサロは 「殴れよ」と言い、ペドロは顔を殴る代わりに胸をドンと突き、走り去る。これで、2人の友情も終わりだ。その夜、ゴンサロがベッドで涙を流していると、母が来てくれたので、そのまま抱き着く(4枚目の写真、頬は涙を拭ったあとの水気で光っている)。
  
  
  
  

そして、9月11日。戦闘機がゴンサロの家の上空を飛ぶ。夜になっても母は帰ってこないので、家の中はゴンサロと姉と乳母の3人だけ。ゴンサロは電話機の前で待っているが、一向にかかってこない。居間では TVがつけられ、アジェンデ大統領が関係するビルが爆撃されている様子が映る(1枚目の写真)。陸軍総司令官ピノチェトによる軍事クーデターだ。ニュースは、アジェンデ大統領が、キューバのカストロ議長から贈られた銃で自殺したと告げている。その時、やっと電話が鳴る。「やあ、ママ。いつ戻るの?」(3枚目の写真)。しばらくして。「でも、ママ…」。話しを聞いていて。「バイ」。受話器をガチャンと置く。ゴンサロは、居間に戻ると、2人と一緒に再びTVの前に座る(3枚目の写真)。姉が 「ママ、大丈夫だった?」と訊くと、「らしいよ」とだけ答える。。
  
  
  

翌日のセント・パトリック校。軍が厳重に警備し、生徒達は一列にされ 順番に中に入らされる(1枚目の写真)。玄関では、髪の長い生徒が、強制的に丸刈りにされている。ゴンサロは、何とか丸刈りを免れた。その横では、この状況を見た神父が、「子供たちに何をしとる! ここは兵舎じゃないぞ!」と怒鳴り、2人の兵士に拘束されている(2枚目の写真)。一番の不良は、中庭で、「軍隊のバカ野郎!! 兵舎に戻れ!!」と叫び、直ちに兵士たちに捕らえられ、どこかに連行されていく。ゴンサロの教室に 兵士を連れた軍人が入ってくる。軍人は、ソトマイヨール大佐だと名乗り(3枚目の写真)、①この学校で起きている異常事態を収拾に来た、②勉強に専念しろ、③授業料免除の生徒で真面目に勉強しない者は排除する、④神父は更迭された、と述べる。
  
  
  

次の場面は、学校内の礼拝堂。新しく着任した神父が話していると、そこに2人の助祭を連れたマッケンロー神父が入ってくる(1枚目の写真)〔学校から追い出されたのでは?/よく、礼拝堂に入ることを許されたものだ/大佐は、なぜ即刻の退去を命じない?〕。そして、祭壇の脇にある小さな扉を開いて中からチボリウム(聖器具)を取り出し、中に入っていた聖体をすべて食べてしまう。そして、新任の神父に、「この場所はもう神聖ではない」と言うと、燭台のロウソクの火を消す(2枚目の写真)〔新しく教会を建てる時は、完成してから聖体を持ち込むので、一時的になくなっても、追加すれば済むことだと思うが…〕。そして、生徒達の方を向いて、「神はもうここにはおられない」と言うが、これも同様の理由で詭弁としか思えない〔キリスト教徒でないので、間違っているかもしれないが〕。それだけ言うと、最後まで好きになれなかった この専横的な神父は通路を引き返し、出て行こうとする。すると、ペドロが立ち上がり、「さようなら、マッケンロー神父」と言う。すると、神父は振り返り、「グッバイ、マチュカ」と応える(3枚目の写真)〔これまで一度も生徒を名前で呼んだことがないのに、ここだけマチュカの名前を言うのは変〕。他の生徒も全員が立ち上がり、「グッバイ、マッケンロー神父」と唱和する。「グッバイ、ボーイズ」〔ここまでで十分神父が嫌いになっているので、如何にも取ってつけたようなシーンは、感動を何一つ呼ばない。監督はクライマックスにしたいのだろうが…〕
  
  
  

真のクライマックスはこの先。ゴンサロが家に帰ると、母は またいない。ベッドで横になってしばらく考えた後、ペドロともう一度仲良くなろうと考えたのか、自転車でペドロの家に向かう。しかし、グラウンドを横切ってバラックの密集している場所まで行くと、そこには大勢の兵士がいて、居住者を次々とトラックに乗せている。まだトラックに乗っていない住民は、両手を梁や壁に付かされ、兵士が見張っている。まかり通る暴力のひどさ。家の中にあった紙類はすべて泥道に廃棄されている。ゴンサロが、「クソッタレの軍人ども! ろくでなし〔淫売の子供たち〕!」という女性の罵声に目を向けると、叫んでいたのは、家から追い出されたペドロの母だった〔彼女の憎しみは分るが、平気で汚い言葉を使っている。ペドロは、同じ言葉をゴンサロが使った時、あんなに怒ったのに、母が言うのは平気だ/この母の台詞は、学校の集会で模範生だったペドロの母からは、想像できないほどひどい〕。そこには、シルバナもいて、地面に押し倒された父を心配して、抱き着いている。兵隊たちがそれを無理矢理引き離すが、彼女は、父を蹴っている兵士に逆らい、もう一度父を庇うように抱く。ペドロの母が、「その娘(こ)を構うんじゃない! このクソ野郎ども!」と叫ぶ。シルバナは、兵士につかみかかって父を守ろうとする。いい加減 頭に来た兵士の一人が、銃でシルバナを撃つ。それを見たゴンサロの表情が、とても印象的だ(1枚目の写真)。そのあと、シルバナの姿が映るが、胸を撃たれて即死状態だ。そして、赤ん坊を抱いたペドロの母、ペドロ、シルバナの死体に抱き着く彼女の父の全体像が映る(2枚目の写真)。その時、ゴンサロの後ろからやってきた兵士が、「クソガキ、どこに逃げる気だ?」と ゴンサロを詰問する。ゴンサロは、「僕は、ここの住民じゃない。川の向こうから来たんだ」と何度も繰り返すが、兵士はここの住民だと思い、捕えようとする。そこで、ゴンサロは、「僕を見てみろ!」と叫ぶ。兵士が見ると、服や靴はスラムの住民のものではない。そこで、頭を一発叩かれ、「とっとと失せろ!」と解放される。ゴンサロは、自分の方をじっと見ているペドロとしばらく目を合わせると、自転車を漕いで “戦場” から逃げ出す。顔には涙が溢れている(3枚目の写真)〔この一連の場面は、確かに、高く評価されるに値する〕
  
  
  

これまで、ゴンサロの家の周囲の環境や、家自体をはっきりと映した例はなかった。それでも、次のシーンでゴンサロが自転車に乗って走る高級住宅街の様子は何となく違う。そして、家の前の道路には、ロベルトの白いメルセデスが停まり、家の門の中にはトラックが入り〔以前は 大きな門などなかった〕、玄関もより大きく立派になっている。ゴンサロがドアを開けた姿を、室内側から撮った映像には、背後に噴水付きの庭まで映っている。中に入って行くと、まだ家具の入っていない広い居間の向こうに、広い芝庭が見え、洒落た金属フェンスの外側では、これも洒落たイスに座ったゴンサロと姉、横に立って話している母の姿が見える(1枚目の写真)〔ロベルトの采配で、豪華な家に引っ越した〕。そこに、トラックの引っ越し業者がソファを運んできて、絨毯の上に土足のまま乗ったので、母が飛んで来て注意する〔それでも、業者はバックせず、2人目も、そのまま絨毯の上を平気で歩いていく〕。母は、そこに立っていたゴンサロに、「あら、坊や。大丈夫? 幸せ?」と訊くが、ゴンサロは何も言わない。次の車内シーンでは、ゴンサロが髪を整え、制服を着て、“魂を失った” ような顔で、ロベルトの隣に座っている(2枚目の写真)〔ロベルトは学校まで乗せてもらった〕。途中で、白のメルセデスは、以前2回登場したコンクリート壁の前を通る。そこに書いてあった文字は完全に消されている。クラスでは、ゴンサロの後ろの席に座っているのは、映画の最初と同じ、虐めっ子のガストン。ペドロは追放されていない。今度も試験中。ガストンが、ゴンサロをつついて代わりに答案を書いてくれと頼むと、ゴンサロは試験用紙を受け取るが、返された紙には、大きく、「ASSHOLE(くそったれ)」と 英語で書いてあった。既にゴンサロは席を立っていたが、教師〔以前と違っている〕に渡した試験用紙は空白のままだった〔そこには、1973年10月5日と書いてある。革命の24日後だ〕。因みに、試験用紙は、それまでのように手書きではなくタイプ打ちになり、問題も意味不明になっている。例えば、問1は、「次の文章を読んで空白を埋めなさい」だが、①「液体から蒸気になるステップは……と呼ばれる」。②「結露は……から……へのステップだ」。①は蒸発だろうか沸騰だろうか? ②は水蒸気と水滴でいいのだろうか? 11歳には無理だと思う。
  
  

ゴンサロは、学校の制服のままペドロの住んでいた場所に行って見る。高台から見下ろすと(1枚目の写真)、グラウンドの向こうにあったスラムはすべて撤去され、何も残っていない(2枚目の写真)。ゴンサロは、その惨状をじっと眺め続ける(3枚目の写真)。映画が終わると、「ヘラルド・ウエラン神父を追悼して」と表示される。神父は映画が公開される少し前の2003年10月31日に亡くなった。写真を見る限り、この映画のマッケンロー神父とは違って、もっと尊敬に足る人物に見える。これでは、ヘラルド・ウエラン神父を侮辱することになるのではないか、と思ってしまう。それほどマッケンロー神父は不愉快な人物だった。
  
  
  

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